誰に何を言われようが私は高杉晋助に生きて欲しかった
最新話のネタバレを含みます。
拝啓 高杉晋助様へ
貴方が壊してしまいたかった程に憎んでいたターミナルから見た夕焼けはどんな色をしていましたか。
憎悪の中それでも同じ志の元集まった人に囲まれて仲間に囲まれてみた夕暮れの色でしたか
まだ若き頃に腐れ縁の友人や新しい仲間に囲まれ生傷だらけでまだ見ぬ未来に心躍らせていたあの日々と同じ色でしたか
それとも、幼い頃、周りには田んぼしかないような田舎の恩師や仲間達笑いながら帰路につくため歩いていた畦道と同じような色をしていましたか
きっと貴方はどれも同じ色だと同じ夕暮れだと思うかもしれませんが私は貴方の目に映る最後の色がそれでよかったと思います。
貴方の左目に最後に移ったのは重く今にも降り出してしまいような曇天の空模様でした。
でも、貴方の残された右目にはきっと暖かいオレンジの光が写っていたのではないでしょうか
夕暮れの太陽の光の色は自然と人を慣れ親しんだ家や人が待っている帰路に着かせます。
貴方がずっと帰りたいと望んでいた松下村塾に帰ることはできましたか。
少し早めの帰りにはなったかと思いますが、きっと少しばかり遅れて貴方の大切にしてきた人達や今まで貴方の人生の中で出会ってきた掛け替えのない仲間たちもやってくるでしょう。
だからそれまでは先についていた仲間たちと話しながら待っているのでしょうか。
酷い話ですが、私は貴方に最後まで例え人ではなくても生きていて欲しかったと思います。
貴方の恩師が永久の時間の中に閉じ込められ、悩み葛藤し身を切るような思いで今まで生きてきたというのに、私は貴方に同じ事を望んでしまいました。
心も体もボロボロになって死ぬより辛い思いを抱えて何十年もの生きてきた貴方にもう頑張ったよやこれ以上辛い思いをして欲しくはないと思うことができずに、貴方が死ぬという事が受け入れることが出来ずにいました。
それでも私は貴方が最後まで生き抜くことを諦めきれずにいました。
きっと生きてくれる。
私は誰よりも高杉晋助という男に未来を生きて欲しかった
頼むから貴方が憎くて仕方がなかった未来を見て欲しかった。
貴方がそんな未来見て、悪くないと感じてほしかった。
戦場でのほんの一瞬の瞬きではなく朝起きて気の許せる仲間たちと同じ時を過ごして今まで後回しにしてきた喜びや悲しみを噛み締めて欲しかった。
人としてどんなに小さくてもいい、幸せをもう一度感じてほしかった。
高杉晋助は誰よりも人間らしく最後まで生きてほしかった。
私の勝手な我が儘だとは思いますが、それほど貴方は美しく強く最後まで自分を曲げない人でした。
それが反面とても悔しくて悲しかった。
きっと私以上に貴方の周りにいた人達の方が強く思っていたでしょう。
彼等はこの先何度もあの時本当はどうしていれば貴方ごと生き抜く未来があったのではないかと立ち止まる事があるのではないかと思います。
それでも頑固で煩わしいことが嫌いな貴方はそんなことでしけたツラするなと仲間達の背中を叩くことでしょう。
あなたが最後に、右目に映った人は貴方によく似ている人でしたね。
貴方のように頑固で意地っ張りで強く、人に周りに愛される人。
貴方方二人は、例え地獄で落ち合っても酒など酌み交わす暇もなく昔と同じように売り言葉買い言葉の喧嘩をしているのでしょう。
そして昔からの友人に仲裁され、不貞腐れながらもほかの仲間や同志たちと出会うのでしょう。
その時はどうか私の知っているような少し小馬鹿にしたように鼻で笑って、くだないとでも言ってください。
きっと貴方の周りにいる人々は地獄の道でも鼻歌を歌いながらくだらない話をしてどんちゃん騒ぎをしながら進んでいくのだろうと思います。
貴方が探し続けていた武士とは何か見つけることはできましたか。
貴方が望んでいた侍にはなることはできましたか。
貴方が思い描いていた未来とは違って見えていますか。
どれも貴方の口から、言葉で聞きたかったことでしょう。
それがもう叶わないのが悔しくて悲しく思います。
しかし、きっとこの答えは貴方が守り抜いた未来や貴方の意志を継いでいく者たちが答えてくれるのでしょう。
高杉晋助の最後が一人じゃなくてよかった。
高杉晋助を好きになってよかったと心の底から思います。
敬具。